月夜見 “たで食う虫も好きずき”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより
  


 気がつけば随分と秋も深まって。収穫の恵み、新米だの栗や梨だの甘芋に秋刀魚だの、秋の味覚の善し悪しの話題から、ああそろそろ冬だねぇ、月が変わったら綿入れを出さないと、長屋には養生が要るところはなかったかねぇ、隙間風はしょうがないけど、雨漏りやひどく壊れてるところは大家さんへ言っとかないと…なんてなことへと関心が切り替わる。大きな屋敷では、さして厳しい寒さに襲われる訳じゃあなかろう町なかの立地であっても、調度品や建具を冬物に入れ替えてしまうほどの大掛かりな冬支度をする。陽が暮れるのも早くなるので、灯火の油も安くはないよと庶民は早寝。横になった頃合いに昇るという、この時期ならではな臥見月など悠長に待ってはおれず、どこでもはやばや寝入ってしまうもの。そんな遅くまで起きているといやあ、風流な道楽を堪能出来ようお大尽か、夜の徒花
(あだばな)が咲き競う花街、若しくは賭場にて 賽の目にかっかと熱くなってる連中に………。




 無意識のことだろう、夜鳴きソバ屋の大将が湯気の立ちのぼる釜から顔を上げたのは、夜回りの拍子木の音が、静かに澄んだ夜陰の中へと響いて来たから。おや もうそんな時期なのかと感じて、その音の出どころを探すようについつい見上げた晩秋の夜空には、やっと昇ったのに見てくれる人がいない月が、町屋の屋根にかかりそうなほど低く光っていて何とも寂しそう。まだそんなにも…出歩くのが億劫になるほどの寒さは襲って来ちゃあないけれど。陽が落ちちゃあ暗くて何にも出来ず、起きているにも限度があって。自宅で作業をしている居職の者も、残りの仕事は朝早くからかかれとばかり、皆して早めに寝付くようになり始める頃合い。それでも起きてる交替制の職をこなす人もいれば、帰りが遅い人もいるのでと、屋台は年中忙しく、そして……。

 「あっちだっっ!」
 「うわぁっ、飛んだぞっ!」

 がっちゃん・がちゃがちゃ、瓦を踏みにじるそれだろう、鈍いが耳障りな音が立て続き。屋根に登って月見と洒落込んでいた猫が数匹、文字通りの飛び上がって退くと大慌てで道を空ける。軽業師でもいるものか、金箱抱えて屋根伝いに逃げるところから、ついた名前が“ましら
(猿)小僧”。狙われた商家は数知れず、逆らうと殺されかねぬほど気も荒く、よって顔や姿を見たまま生き延びた者はないという。そんな凄腕の凶賊と世間で噂の強盗一味がとうとうこのご城下にも入り込んだとの情報を得て、厳戒態勢を構えていた真っ最中。回船問屋の大店から派手に割れ物の音が鳴り響いたとの知らせがあって。それっと捕り方が駆けつけて飛び込めば、それと鉢合わせるかのように一味の面々が外へ飛び出してゆくところ。何も全員が屋根まで駆け上がれる訳ではないらしく、だが、追っ手を引き付ける役回りか、派手な逃げ方をするのが一人、噂の通りに身が軽く、蔵の屋根から隣の店の二階へ飛んだ。たいがいの捕り方ならば、つい撹乱されてあれを追えと躍起になるのやも知れず。だってのにやはり追い切れぬのだろからこそ、彼にこそ一番価値のあるお宝は預けられもするらしく。とはいえ、これらは捕らえた下っ端連中から、取り調べで聞き出した言質から明らかになったこと。今の今ではそんな事情なぞ判りはしなくて。それにしては…そんな“お猿(ましら)”にも動じなかったか、さして人手は割かれなかったのを、落ち着いた采配、大した差配をする取り締まり方のいる城下だと、近隣周辺の藩主のかたがたから随分の感嘆されもしたのもまた、全てに収拾がついてののちのお話。

  ………だって、ねぇ?
(苦笑)

 「待ちゃあがれっ、こらっ!」
 「ひぃやぁああぁっっ!」

 この先を説明するまでもなくの“真打ち”がご登場。相手が軽業師なら、このご城下の捕り方には、ゴムゴムの能力を駆使してどんな高みや難所でも自在に駆け回れる、そりゃあ頼もしい親分がいる。噂の通り、小脇に何か抱えて飛び出した小柄なの。そしてそやつの逃走をむしろ手助けするための撹乱でもするかのように、四方八方へ、中には捕り方への体当たりを仕掛けてまで逃げて見せる残りの連中…というのが真相な中。最初の打ち合わせで、お前は脇目も振らずにアレだけを追えと言われていた、ゲンゾウの旦那からの指示どおり。こっちも“お猿さん度”では負けちゃあいない麦ワラの親分が
(こらこら)、蔵の高窓から飛び出したその後を、ほんの数瞬遅れたのみという俊敏さで追っており、

 「な…なんだ、ありゃっ。」

 居残った連中はもとより、こんな追われ方をしたのは初めてだろう、ましら野郎の方もぎょっとして背中をすくませる。高いところが平気な鳶職だって、ああまで素早くの難無く、地べた同然の速さで駆けられるところじゃあない。高さに加えて傾斜もあるし、夜中だからそれだけでも足元は不案内。角度によっちゃあ真っ暗な闇ばかりが延々と続くし、それなりの金具こそ掛けてもあろうが それでも屋根瓦は案外と外れやすい。すべるか足を取られるか、よほどのこと慣れてなければこなせぬ駆けっこだというのに、

 「止まれっつってるだろがっ!」
 「言われて止まる馬鹿がいるかっ!」
 「がちゃがちゃ・がちゃがちゃと、ご近所の迷惑考えろっ!」
 「喧しいのはお互い様だっ!」

 ごもっとも。…じゃあなくて。
(笑) 世間の噂とはまた別の、捕り方のみが知り得る情報の交換で取りまとめられた結論から言って、押し込みをはたらく連中の中に本当の大頭目はいない。目的の中の最も高価なものや、若しくは何かしら意味があっての一番欲しいものをば、どうしても持ち去る役目を果たすのが あのお猿。中には抜け荷がらみの品なのか、何にも奪られちゃいませんと言い張る店もあるらしかったが、その後あっと言う間に傾いてるあたり、やはり重要なものが奪われはしたらしいこと明らかで。だが、あやつ以外を全部捕まえても、新しい顔触れでまたぞろ盗みを繰り返しており、よほどの頭数がいる一団なのか、それとも。

 “組織立ってなんかない、その時々で頭数を揃えてるだけなのかも知れん。”

 押し込み方の荒っぽさも、急ごしらえの面子でかかっているからだとすれば平仄は合う。結束も呼吸合わせもあったもんじゃなくて、大体の手筈以外は行き当たりばったりなのがありありしており。ただ…だとして合点が行かないのが、彼以外の顔触れが、捕まらぬようにと必死にならぬこと。時代や地域にも拠ったが、それでも5両盗めば首が飛ぶ。出来心の万引きや置き引きとは桁違いの押し込み強盗は、間違いなく遠島か死罪だろうっていうのに、逃げる手合いを庇うようなことをする奴がいるのはどうしてか。さほど親しい仲間でもない、出会って間もないような名前さえ知らないような相手。いくらそういう手筈でも捕まってしまったら最後だくらい判らぬ連中じゃあなかろうに。

 “まあ、その辺は一味の頭目寄りのもんに訊きゃあ判るか。”

 だからこそ、毎度の捕り物騒ぎの中、唯一の必ず 逃げ延びているこやつをこそ見失っては何にもならぬ。よほどに大事なものなのか、追っ手の手ごわさに慄きながらも、それだけは放り出さずに必死で逃げる心掛けは、立場が違ったならば ややや立派よと褒めてやりたいくらいだったほど。

 「いい加減にお縄を頂戴しろっ!」
 「やなこったいっ!」

 ゴムゴムのロケットっと弾みをつけての遠方から飛び掛かっても、すんでのところで身を躱すし、バズーカを放って飛んでっては意味がないのでとびょい〜〜んんと延ばしての掴み捕ろうとしても、
「うぉっとと…危ない危ない。」
 身が軽いのは伊達じゃあないか、ひょいひょい逃げ回るのがまた小癪。
「だあもうっ! こんの野郎がっ!」
 相手は恐らく地下足袋だろうに、こっちは草履ばきでよくもまあ、不安定な屋根の上をそんだけ自在に駆け回れるもんだと。見物があったならついつい感心してしまうほど、ちょっとした芝居が霞むほどもの迫真の追い駆けっこを演じていた、麦ワラの親分さんだったのだけれども。

 「わっ!?」

 さすがに万能とはいかなんだものか、そこだけ脆かった瓦を踏み砕いてしまっての、ちょろっとバランスを崩してしまい、あわわとたたらを踏んで駆け足が緩む。ここまでの猛烈な動きを急停止すると別なバランスをも崩れて来、流れるように動いていた間はごまかせていたあちこちの無理が、一気に負荷となって全身を支えていた片足へと乗っかかる。前へ前へというベクトルが、一遍に“倒れろ倒れろ”という方向へ働く。

 「うああっ!」

 何が口惜しいって、コケるくらいはゴムの身だからあんまり痛くないし構わないが、せっかく此処まで頑張って追ってた相手が、へへんと嘲笑いもって逃げ延びてしまうのが口惜しくて堪らない。きぃと歯咬みしながらも、せめてすぐにも追えるよに。狙い定めた先へ片腕だけ延ばして、火の見櫓をはっしと掴むと地上までは落ちないようにそちらへと飛んだ。ただ、そっちへ向かわずに手前で曲がっての武家屋敷の居並ぶほうへ逃げ込まれては、広い庭の中に庭木や小者・中間が住まう長屋の棟などなどが居並んでの、闇だまりが俄然増えるため、見失うのは明らかで。そういうことが先んじて判る身なのが今はただただ苦い、ちょっと大人になってた親分の視野の中、

 「………ぐがっ?!」

 向こうは憎たらしいほどに速度を変えぬまま、杞憂していたほうへと駆け去りかけてた賊の影が…ばいんと跳ね返っての押し戻されてる。彼もまた意外だったからか、珍妙な奇声を上げてしまっており。ルフィへだけという警戒をしていた不意を突かれたか、それでも弾き飛ばされたまま尻餅まではつかなかったところが、さすがといやさすがの体さばきであり。
「誰だっ!」
 物に当たった訳じゃあないからか、そんな誰何
(すいか)をしたところ、
「何処へお急ぎかえ? 闇夜のましらさん。」
 さして切羽詰まってはいないのだろう、余裕の声が返される。落ち着いていて響きのいい、悠然としていて場慣れした調子の、若い男のその声に、

 「…っ!」

 地べたすれすれ、ぎりぎりのところから、ゴムの反動でびょいんと元の高さまで戻って来た、お元気な親分が思わずの声を出しており。

 「ゾロっ!」
 「あいな。奇遇だな、親分。」

 奇遇も何も、屋根の上に飄然と出て来る雲水がいるもんかと、ウソップやサンジが居合わせたなら…こんな場合ながらも冷静に突っ込みを入れていたところ。外套か合羽のように肩から背へと羽織っていた広々とした布の下から覗く、あちこち擦り切れた粗末な僧衣もみずぼらしい、放浪のぼろんじとしか見えぬのに。剥き出しの脛やら錫杖握った大きな手、僧衣がくるんでいても隠し切れていない、幅のある胸板にがっつりとした肩、強かそうな腰といった屈強精悍な体躯のどこもかしこも、何とも雄々しく頼もしいことか。人を食ったような物言いが、憎たらしいほど似合いでならず、

 「くっ!」

 ただ進行方向へ立ちはだかっただけ、まだ何も手を出しちゃあいない彼にぶつかっただけで後じさりを余儀なくされた賊は、さすがに半端なチンピラではないからか、相手の技量もある程度は踏めたらしかったが、だからと言っていまさら引く訳にも行かないのだろう。

 「退きゃあがれっっ!」

 小脇に抱えた荷はそのまま、もう一方の手へ匕首を掴み出す。鞘は懐ろへと残しての引き抜きようも物慣れていて、

 「こいつぁ、歯ごたえのありそうなお兄さんだ。」

 静かな声で、だが、妙に嬉しそうな。舌なめずりが添うていそうな言いようをしたゾロであり。鋭く細められた眼差しは、指し詰め、獲物を前にした猛禽のそれか。今にも飛び出して来そうな相手と同じく、そちらも心持ち腰を屈めてバネを溜めたかに見えたのだが、

 「がああぁぁっっ!!」

 破れかぶれか、刃物を腹の前へと固定し、体当たりを仕掛けて来たものを、

  ―― しゅっと、一閃

 錫杖を握っていた片側の手、その手元を鋭く振るって見せただけ。杖の先に金属の環が幾つか下がっていたそれが、しゃらんと震えて大きく躍り、見事に匕首の切っ先を搦め捕っている。まだ距離があるというのに、思いがけない間合いで強く手元を突かれてしまい、そんな衝撃を感じたことが、男には謂れのない恐怖であったのか、

 「ひいっ!」

 たたらを踏んでの失速したまま、今度こそは体勢を立て直すことも侭ならなかったか、屋根から落ちてゆきかけたのを、
「おっとと。」
 びょい〜んと伸びて来た腕が何とか受け止め、落下だけは防いでやって。逃げられては意味がないと、屋根の上まで引き戻してやれば、
「おや。意識がない。」
 白眸を剥いてる男の様子に、傍らへと屈み込んだ緑頭の坊様が苦笑をこぼして見せて。低い月の零す光に照らされた、そんなお顔に見とれながらも駆け寄って来た小さな親分、
「坊さんが幻術使ったんか?」
「そうまで法力があるようなら、こんなぼろんじなんかであるもんですかい。」
 いつものような掛け合いをしつつ、ああこんなところで逢えるなんてと、頑張ったご褒美をもらったような気がした親分さんだったのは言うまでもなかったり……。(ひゅーひゅーvv)




  ◇◇◇


 なんで自分が捕まってもというノリで逃走役を必死で逃がした連中だったかと言えば、その仕事が成功すれば、家族へ駄賃が届けられるという手筈になってたとか。自分では確かめられないが、そういう付け届けをもらった連中はたくさんあったそうで、それが次の仕事の人寄せへの、十分な信用材料となっていたとか。コトの運びによっては、お解き放ちを狙っての牢屋に火をかけて手助けしてくれる例もあったとかで、
『自分トコの失態だけに、近隣藩の連中にしてもそこまで外部へ話しちゃあくれなんだってことだろな。』
 のちのちにお奉行からそういう詳細を聞いたゲンゾウの旦那が、判らんでもないけれど…と、いかにもしょっぱそうなお顔をしていたのもまた後日のお話。

 「……何だ、こりゃ。」

 これだけの手並みを備えた逃走係が、自分が落ちかかっても守ろうとした包みの中身は何だろかと、気絶した賊を念入りに縛り上げてから、風呂敷にくるまれたそれをほどいてみたれば。浅い平鉢に土ごと収まっていたのが、浅い緑色の奇妙な塊で。

 「さぼてんだな。」

 苦手なものと対面したかのような、うへえという何とも言えないお顔になったルフィと違い、自分の得意分野の範疇だったか、ゾロの側は ほほぉという顔つきとなる。
「さぼてん?」
「ああ。雨がほとんど降らねぇ砂ばっかの土地に生えてる草でな。」
「でえぇ? これで草なんか?」
 何か緑の飛龍頭みてぇじゃんかよと、口許歪めた親分さんの言いようへ、
「ひりょうず?」
「何だ、そっちは知らねぇのか。えとうっと…ガンモドキのこった。」
 これで面目躍如出来たぞと思ったか、目元たわませ、えへへぇと相好を崩すところが何ともはや。

 “くそぉ、何でこうも可愛いかね。”

 心臓に悪いったらねぇやなと。さっきまではああも鋭かった眼差しが、あっと言う間にどこか覚束なく泳いだところが、妙なところで他愛ない坊様で。

 「でも、何でまたこんなものを後生大事に…。」

 今宵襲われたのは、随分と羽振りのいい回船問屋。こやつらが押し入った蔵には、金貨宝石、翡翠の壷に金むくの仏像。紫檀の厨子に金剛石の嵌まった笄
(こうがい)や、希少な絵画や書物などなどと、南蛮渡来の珍しいものや高価なものがざっくざくと詰まっていたらしいのに。こんな不格好な団子みたいな草をわざわざどうしてと、合点が行かないらしい親分らしかったが。

 「唐渡りの珍しい物、
  しかも砂漠にしか生えないって言う、そりゃあ珍しいもんだから、
  好事家が大枚はたいてでも欲しがるって聞くよ?」

 中には、何年かに一度って周期でしか花が咲かない種もあるらしくてな。ふぇえぇ、そりゃあ凄い。

 「俺はてっきり、こっちの鉢に用があんのかと思ったぜ。」
 「残念。特に有名な骨董でもねぇから、そこらの荒物屋に並んでんのと変わらない。」

 着眼点は悪くないと、ちょっとずつながら成長してってる無邪気な親分さんへ、ついつい目許がやわらかく和むゾロだったりし。

 “すまんな、本当のことは言えねぇ。”

 恐らくは、これを引き取るのだろうこの藩の吟味方も、詳細までは明かさぬはずだ。このさぼてんは、うばたまという種類のそれであり、茎のてっぺん、花がつく辺りは“ぺよーて”といって、強い幻覚作用のある麻薬成分“めすかりん”が含まれているという。効果は阿片に匹敵するほどのそれだそうで、何ださぼてんかと見逃されての、随分と国内へも入り込んでいるらしく、

 “成程ねぇ。ただの抜け荷より始末が悪い。”

 そして、こっちの“ましら小僧”とやらの一派は、そんなものの価値をいち早く知って、手元に集めて売買するもよし、盗み出した先を“こんなもんを扱ってたとはねぇ”と恐喝してもよしという格好で目をつけたというところだろうか。道理で届け出ない被害者が多かったはずだと納得しつつ、またもや知らぬことでのお手柄を立てた小さな親分さんへと視線を戻せば。

 「……。」

 がんもどきのような鉢植えに、何人もが牢屋に入ることを辞さぬくらいの、こうまでの大騒動を起こす価値があるとは思えぬものか。う〜んう〜んとしきりに唸っていたものが、小さな肩をふしゅりと落とすと、

 「まあ、たで食う虫も好きずきって言うしな。」

 タデというのはそりゃあ苦い草だが、だってのにそれをこそ食う虫がいることからの、価値観は人それぞれだよという意味の言い回し。

 「親分?」
 「うん…おいらには、こういうのを高値で買う奴の気が知れねえってこった。」

 珍しいから滅多にない、滅多にないから欲しいって奴らは、じゃあ一番の高値を出した奴のもんだと競争する。そいで高価になるもんだ…ってのが、まま所謂“世の道理”なんだろが、
「そんな理屈があるってのは判ってたって、どうにもおいらにゃあ関心がない。そういうものはいくら高くても有り難みなんて判らないな、うん。」
 あっけらかんと言ってのけ、

 「例えば うっとりするほど綺麗な花だって、関心がない奴にはそこらの草と一緒なんだろう?
  それと一緒の理屈だよ。」

 どんなに希少でも、誰も彼もが“素晴らしい”と思ったって、自分にはやっぱ別物だと。一緒に浮かれるのは無理みたいだと言ってのける彼であり。そこのところを見失わない、悪く言って子供っぽい廉直さが、だが、いろいろな悪事や若しくは人という生き物の心の綾を結構見ているのだろうに、それでも歪まないままでいるこの小さな親分さんは、それこそそれだけでも得難い存在なのではなかろうか。

 「…たはは。//////」

 柄でもないこと言っちゃったと思ったものか。不意に笑い出すと後ろ頭をがりがりと掻いて見せ、にゃは〜なんて照れ隠しの笑みを衒いなく向けて来るもんだから、

 “…っ。////”

 うああ、ちょっと待て〜〜〜っ////////、と。大いに焦った誰かさんだったことは言うに及ばずで、
「坊さんは何でも知ってんだな。」
「……下んねぇことばっかだがな。」
 隠してることがあるってのに、褒めてもらってもなとそこは謙虚に言い返し、

 「肝心なことは何にも判らねぇ。」
 「肝心なこと?」

 ついつい本音がぽろりと零れる。この、お日様みたいな彼に焦がれるのは、子供のように単純明快なまま、そりゃあ無垢な心根までも、逞しい気丈さで保ってる芯の強さが好もしく思えるからで。なのに、自分はこうは居られない矛盾。今宵のことに限らず、他にも隠しごとは山ほどあって。別に明かしたって構わないんじゃなかろうかと思う反面、余計な憂慮を巡らせた監視役が、隠密の秘密の方を優先し、ルフィを消そうとしたら…傷つけようとしたらば どうしよか。そこまでを想像するだけの蓄積がある身なのが恨めしいなら、いっそ自分が近づかなきゃ一番なのかも知れないが。どうにもただ見守ってるだけじゃあ済まないような、無茶の多い親分だからつい。気がつきゃあ飛び出していての、手出し口出ししている始末であり。これを世に言う“悪循環”と命名してはいかんのだろか。しかもしかも、


 「肝心なこと…………飛龍頭を知らなかったことか?」
 「…違うって。」


 相変わらずに、なかなか進展しそうにない人たちなようですねと。臥待ち月が控えめに忍び笑いをこぼしてる、そんな晩秋の宵でございまし。せめて寒さの厳しくなるまでに、身を寄せ合えるまでになれてりゃあいいのですけれど……。





  〜Fine〜  08.11.07.

    *カウンター 295,000hit リクエスト
        ひゃっくり様 『ルフィ親分捕物噺』


  *お待たせしました。そしてやっぱり進展してません。(爆)
   お互いに感心し合って終わるのがパターンか? このシリーズは。
   ルフィはともかく、ゾロの方はいい大人のはずなんですがねぇ。
   まったくもうもう、この甲斐性なしがっ。
(笑)

  *あああ、そして気がつきゃ誰かさんのお誕生日も間近いですね。
   看板の二人の生誕記念だけは外さずに祝って来ましたが、
   こ、今年はどうだろう……。
(う〜ん)
   でも、今んところは手古摺ってる連載物とか、抱えてませんしね。
   あ、お侍様の方で1本あったかな? あれれ?

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